AWS経験3年、フリーランスで月80万円は現実的か?
「AWS経験が3年ある。フリーランスになれば月80万円もらえるらしい」——エージェントサイトの案件一覧を眺めていると、そんな期待を持つのは自然なことです。しかし、実際に月80万円の案件を安定して受注し続けられるかどうかは、その「3年」の中身によって大きく変わります。
私はクラウドインテグレーターでの勤務経験を通じて、フリーランスに転向したAWSエンジニアを数多く見てきました。月80万円を超えた人もいれば、60万円台で伸び悩んでいる人もいます。この記事では、AWS経験3年の方が月80万円を目指すうえで知っておくべき現実をお伝えします。
市場が評価する「AWS経験3年」の中身
まず前提として、市場はあなたの経験年数そのものにはあまり興味がありません。注目されるのは「何をやってきたか」です。同じ3年でも、評価は大きく分かれます。
高く評価される3年
- VPCの設計・構築を自分で行い、本番環境のリリースまで一気通貫で携わった経験がある
- CloudFormationやTerraformでインフラをコード化し、複数環境を効率的に管理した実績がある
- 複数のAWSアカウントをまたいだマルチアカウント設計を経験し、Organizations やControl Towerを触ったことがある
- セキュリティやコスト最適化の提案を顧客に行い、実際にコスト削減や脆弱性改善の成果を出した
- 障害対応の経験があり、RCA(根本原因分析)を主導した実績がある
評価が伸びにくい3年
- 既存環境の運用・監視が中心で、設計フェーズの経験がほとんどない
- AWSの操作はマネジメントコンソールからの手作業が中心で、CLI や SDK の利用経験が乏しい
- 扱ったサービスがEC2とRDS程度に限られており、マネージドサービスの活用経験が少ない
- チームの一員として作業はしたが、設計判断やアーキテクチャの選定は常に上位者に委ねていた
- ドキュメント作成や手順書の整備が主な業務で、手を動かす機会が限られていた
厳しい言い方になりますが、後者のケースでは月80万円はすぐには難しいです。ただし、到達できないという意味ではありません。足りないスキルを正確に把握して、計画的に埋めていくことが重要です。
月80万円に到達できるパターン
エージェントの案件情報や私が見てきた実例をもとに、月80万円に到達しやすいパターンを3つ紹介します。
パターン1: 設計・構築メインの案件を取る
AWS環境のインフラ設計・構築を一人称で遂行できるエンジニアは、月80万円の案件に最も手が届きやすいです。特にIaC(Infrastructure as Code)のスキルがあると、エージェント経由でも70〜90万円台の案件を提示されるケースが増えます。
具体的には、以下のようなスキルセットが組み合わさると強力です。
- Terraformによるマルチ環境(開発・ステージング・本番)の構築と管理
- CI/CDパイプラインの設計と実装(CodePipeline、GitHub Actions、GitLab CI等)
- セキュリティ設計の実務経験(IAMポリシー設計、GuardDuty、Security Hub、AWS Config)
- Well-Architected Frameworkに基づいたアーキテクチャレビューの実施
- コスト管理の知見と、具体的な削減提案ができる能力
この中から3つ以上をカバーできるのであれば、月80万円は十分に射程圏内です。
パターン2: コンテナ・Kubernetes関連の案件を狙う
ECS/EKSの構築・運用経験があると、単価は一段上がります。コンテナオーケストレーションの需要は依然として高く、この領域の経験者は慢性的に不足しています。Kubernetes関連の実務経験があれば、月80万円はむしろ控えめな水準です。
特に以下の経験は高く評価されます。
- ECSやEKSでのマイクロサービス基盤の構築
- Fargateを活用したサーバーレスコンテナ環境の設計
- Helmチャートの作成やArgo CDによるGitOpsの導入
- コンテナのモニタリング・ログ集約基盤の設計(CloudWatch Container Insights、Datadog等)
パターン3: マルチクラウド対応で差別化する
AWSに加えてAzureやGCPの実務経験があると、案件の選択肢が広がるだけでなく、「クラウドを俯瞰的に理解しているエンジニア」として評価されます。特に大手企業のクラウド移行プロジェクトや、M&A後のシステム統合案件では、マルチクラウドの知見が重宝されます。
ただし、「3つのクラウドを浅く知っている」状態では意味がありません。AWSを軸にしつつ、もう1つのクラウドで実務レベルの経験を持っていることが求められます。
月80万円が難しいケース
正直にお伝えすると、以下のような状況では月80万円に届かないことが多いです。これは悲観的な話ではなく、現実を正確に把握したうえで対策を練るための情報としてお読みください。
運用メインの経験のみの場合、月50〜65万円が現実的なスタートラインです。運用経験そのものは価値がありますが、設計・構築の単価帯に入るためには追加のスキルが必要です。特に、運用の中でも「手順書通りに作業する」だけの経験と「運用改善の提案・自動化を主導した」経験では、評価に大きな差が出ます。
地方在住でリモート案件のみを狙う場合、選択肢はありますがまだ限定的です。フルリモートの高単価案件は競争率が高く、フリーランスとしての実績が少ないうちは首都圏在住のエンジニアと比較されて不利になりがちです。ただし、特定の技術領域で突出したスキルがあれば、地方在住でも高単価のリモート案件を獲得しているエンジニアはいます。
コミュニケーション面に不安がある場合も注意が必要です。フリーランスの高単価案件では、顧客との直接的なやりとりや、要件のヒアリング、設計レビューへの参加が求められることが多いです。技術力だけでは選ばれにくいのが現実で、「この人に任せれば大丈夫だ」とクライアントに思ってもらえるコミュニケーション力が求められます。
フリーランスの経験がゼロの場合、初案件から月80万円を得るのはハードルが高いです。エージェントもクライアントも「フリーランスとして案件を完遂した実績」を見るため、最初は70万円台で始めて実績を積み上げるのが王道です。
フリーランス1年目のリアルなタイムライン
独立を検討する方に向けて、現実的な1年目のタイムラインを示します。あくまで一例ですが、多くのエンジニアが類似のプロセスをたどっています。
独立前(1〜2ヶ月前)
- フリーランスエージェントに2〜3社登録し、面談を受ける
- 自分の職務経歴書(スキルシート)を整備する。使用したAWSサービス、IaCツール、プロジェクト規模を具体的に記載する
- 開業届の提出、青色申告承認申請の準備を進める
- 国民健康保険・国民年金への切り替え手続きを確認する
- 生活費の3〜6ヶ月分を貯蓄しておく(案件獲得までの空白期間に備えるため)
独立直後(1〜3ヶ月目)
最初の案件は「高単価」より「実績作り」を優先するのが賢明です。月70万円台でも、フリーランスとしての信頼を積む期間と割り切りましょう。いきなり月80万円の案件を狙って長期間待機するより、まず稼働を始めることが大切です。
この時期は、案件の仕事をこなしながら、経理・確定申告の仕組みを整えることも重要です。会計ソフトの導入や、必要に応じて税理士への相談を始めましょう。
軌道に乗る時期(4〜6ヶ月目)
最初の案件での評価が良ければ、契約更新時に単価交渉が可能です。「入ってみたら期待以上の成果を出してくれた」とクライアントに感じてもらえれば、月3〜5万円程度の単価アップが通ることもあります。
また、エージェントからの案件紹介も増えてきます。フリーランスとしての実績が1件でもあると、エージェント側の信頼度が大きく変わるためです。ここで初めて月80万円の案件が現実的な選択肢に入ってくる人が多いです。
安定期(7〜12ヶ月目)
継続案件を確保しつつ、次の案件の情報収集を始めます。1年間の実績ができると、案件選びの幅が明確に広がります。エージェントからの提案も高単価のものが増え、自分から案件を探しにいくというよりも、条件の良い案件を選べる立場に近づいていきます。
80万円に届かないときにやるべきこと
今の自分のスキルでは月80万円に届かないと感じた場合、焦る必要はありません。以下のアプローチで計画的にスキルを伸ばしていくことが効果的です。
IaCスキルの習得
Terraformは最優先で学ぶべきスキルです。AWSの構築経験があれば学習コストはそこまで高くなく、単価への影響は非常に大きいです。個人のAWSアカウントで実際にコードを書き、VPCやECS環境を構築する練習をしてください。公式チュートリアルをこなすだけでなく、実際にゼロからインフラを組み上げる経験が重要です。
コンテナ技術への投資
Dockerの基本操作から始めて、ECSでのサービス構築まで経験できれば、案件の幅が大きく広がります。EKSまで扱えれば更に強力なスキルセットになります。ローカル環境でdocker-composeを使った開発から始めるのが取り組みやすいでしょう。
資格の取得
AWS認定のプロフェッショナルレベル(Solutions Architect Professional、DevOps Engineer Professional)は、案件獲得において明確なプラスになります。特にフリーランスの場合、初対面のクライアントに対する信頼の裏付けとして資格が機能します。また、資格取得のための学習過程で、知識の穴を体系的に埋められるというメリットもあります。
セキュリティ知識の強化
近年、クラウドセキュリティの需要は急速に高まっています。AWS Security Specialty認定の取得や、CIS Benchmarkに基づいたセキュリティ設計の知識は、他のエンジニアとの差別化ポイントになります。セキュリティに強いクラウドエンジニアは市場で不足しており、単価の上乗せにつながりやすい領域です。セキュリティ領域のキャリアパスについてはクラウドセキュリティ専門家への道も参考になります。
副業からの段階的な移行
いきなりフリーランスに転向するのではなく、会社員を続けながら副業からフリーランスへ段階的に移行するという選択肢もあります。週末や夜間に対応できるスポット案件や、技術コンサルティングの案件で実績を作りつつ、市場の反応を確かめられます。ただし、現職の就業規則で副業が認められているかを必ず確認してください。副業禁止の会社で無断で副業を行うと、トラブルの原因になります。
手取りで考える:月80万円の現実
月80万円という数字の魅力に引かれがちですが、手取りベースで冷静に計算しておくことも大切です。
月額80万円のフリーランスの年間収支の目安は以下の通りです。
- 年間売上: 約880万円(11ヶ月稼働想定。1ヶ月は案件間の空白や休暇)
- 所得税・住民税: 約130万円
- 国民健康保険・国民年金: 約80万円
- 経費(通信費、交通費、備品等): 約50万円
- 手取り: 約620万円
これは決して少ない金額ではありませんが、会社員時代の年収600万円台と比較すると、有給休暇・賞与・退職金・厚生年金・福利厚生がないことを考慮する必要があります。単純に「月額単価が高い=必ず得をする」とは限らないことは理解しておいてください。税金・社会保険を含めた詳細な比較はフリーランスと会社員の手取り比較で解説しています。
まとめ
AWS経験3年でフリーランス月80万円は「十分に到達可能な目標」ですが、「誰でも自動的に届く水準」ではありません。設計・構築の経験、IaCスキル、コンテナ技術——これらが組み合わさることで、月80万円のラインを超えていけます。
逆に、運用中心の経験だけでは正直厳しいです。しかし、半年から1年の準備期間を設ければ、スキルギャップを埋めることは十分に可能です。
まずは自分のスキルセットが市場でどの程度評価されるのか、シミュレーターで確認してみることをおすすめします。数字で現状を把握することが、次のアクションを決める第一歩になります。
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